出会い・恋愛・結婚式と当平針弁講座は、何だか平針民俗学講座になってしまいました。しかし、言葉は人を表わすとか申しますから逆も真なり、風習などもご承知頂くとなおさら平針
弁のご納得がいくかと存じます。

しかし、今回よりまた元に戻しまして、発音編です。

「みしろをになみにすえて、てのごいやふるしきをのしといたら、めめぞがいやがったで、つよでどうずいたったがや。あれ、見らっせ。ねじがでてきたに」

分かりませんね。

みしろ=むしろ
になみ=南
てのごい=手ぬぐい
ふるしき=ふろしき
めめぞ=みみず
つよ=杖(つえ)
ねじ=虹
と、標準語訳すれば何となく分かって来ます。

以上の音便変化を見てみると、どうも平針の人は『み』を第一声で発音したくないようにおもわれます。いの一番に『み』を言いたくなくても、名前の時は困りますよね。

そこでよく耳を傾けると美智子さんの場合『み〜ちこさん』のように伸ばして呼んでいるみたいです。あとはその変化理由がわかりません。

「つよ=杖(つえ)」の場合は『え』という母音がいやなのかなと見当をつけたのですが「強い=つええ」という全く反対の例にぶつかり、結局その方が言いやすかったぐらいにしかわかりませんでした。

それにしても虹がねじだったら、ネジはなんなのだ?

『母音がいや』というのは確かにあって、

ほうき=ほき
すもう=すも
おとうと=おとと
どじょう=どじょ

と、第二音以下の母音はどうも省略されやすいようです。

「ばんげにはかどへいったら、かんすにももたとしりこぶたをさされたで、いしななげたった」

これは反対に余分に音を添加したもの。

鳶=とんび(これは全国区ですが)

平針では・・・

晩=ばんげ
墓=はかど
蚊=かんす
もも=ももた
しり=しりこぶた
石=いしな

のように果てしなく何かをくっつけます。晩=ばんげ、の場合は晩景の転化で、なかなかに出所は雅やかなのであります。ももた、しりこぶた、おまけに、ほうた(頬)と身体の何となく肉付きの良い部分には『た』がついています。でも『乳た』『腹た』とはいいませんから、う〜ん困った。

平針のお年寄りは風船のことを『きんたーべい』と言います。これは風船がプーと膨れて縮んだ様子が『きんたーべい』に似ているからだとか。『きんたーべい』は、男の子のキン○○のことです。こうですから、平針弁の言語学的解釈はう〜んと困っちゃうのであります。

 

 

 


たとえば回覧板を届けに行った時、あるい町内の伝達事項を言いに行った時などに、お年寄りから

「ごてゃあぎさまでござゃあました」
と言われた事がないだろうか。これは「ご大儀様」であって、つまり「ご苦労様」という労をねぎらう言葉の、最上級の武家言葉であります。時代劇で殿様が言う「大儀じゃ」と言えば良く分かると思います。ご大儀様は個人的な用件ではなく、公的な場面で用いられます。平針は、純粋な農村がその成り立ちではなく、帰農武士や土着公家(?)が発祥なのでどうも部分的に大げさなのです。

また、「とりもつ」と言えば「縁談をとりもつ」などのように、双方の間に立って世話をすることなのですが、平針では、

「ねえさまァ、そこの醤油とりもってちょう」
のように食卓などで気楽に使われます。これなどは重たい言葉のカジュアル化ですね。

同じく「よぶ」と言う言葉があります。これはオーイと呼ぶ他に、お招きしてご馳走すると言う意味があります。しかし平針では何もご馳走とまではいかなくても

「兄さまァ、タバコ一本よんでちょうすきゃあ」
と、もらいタバコの時にも使えるのです。

「よぶ」の受身は「よばれる」。ご馳走になる場合のことです。しかし平針では振舞う側が

「お茶一杯よばれてってちょうでゃあ」
というように使います。直訳すると

「お茶をご馳走になっていって下さい」
となります。何だか変ですね。よばれるは「頂く」くらいに解釈した方がよいのかも知れません。

このように公家、ちょんまげ入り混じって日本の古い言葉が(保存状態や活用法はどうであれ)日常でつかわれている平針なのですが、それゆえにかどうかは分かりませんが、ルーツの上品さとはうらはらに悪口言葉の豊富なこと!

全国的には馬鹿(東)とアホ(西)、それに加えてタワケあたりでほぼ事足りるのですが、この地では

「あのヘボはよオ、いっつもぐにきゃあたことばっかし言ってけつがってよォ、何だしらん女や博打にたぼけとるもんで家ん中見てみよ、だりこくにしてけちゃかっとるに。あんなくそぬけ、おがらかしてかべにしたろまい」
と、ここまで言えちゃうのです。これは、

「あの弱虫はいつも愚かなことばかり言ってるうえに、女や博打にうつつをぬかしているから家の中はぐちゃぐちゃです。あんな大馬鹿者はいじめたうえに軽蔑してやろうではないか」
という意味です。「ぐにかやあた」は「愚に返る(=ぼける)」という言葉が変化したものと思われますが、あとは語源不明。「おがらかす」は、ひょっとして麻の皮をはいだもののことをおがらと言いますから、名詞+するが動詞になっている現在の流行り言葉(例:お茶する)のように、ひんむいておがらにしちゃうからきているのじゃないかナ、と考えられます。

さんざん悪口を言いまくった挙句(と言っても口ほどに悪く思っていない場合が多いのですが)、

「アイツとはハマが合わん」
と言えば気が合わないの意味。ハマ? これはきっとハマグリで、貝合わせから来てるのではないでしょうか。

ワァ〜雅(みやび)だわァ。かべにできんなァ、平針人。